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【9月講座】ショパンの様々な原典版比較

実施日

9/8(木) 19:00~

ゲスト

多田純一(音楽学者) 

大阪芸術大学大学院芸術研究科博士後期課程修了、博士号(芸術文化学)を取得。著書『日本人とショパン 洋楽導入期のピアノ音楽』(アルテスパブリッシング)、共著『『バイエル』原典探訪 知られざる自筆譜・初版譜の諸相』(音楽之友社)、CD『我が国最初の「ショパン弾き」澤田柳吉の世界~作品篇・演奏篇~』(監修および演奏、解説・ミッテンヴァルト)を出版。「ショパン-200年の肖像」展にて「日本におけるショパン受容」を担当(神戸新聞社、サンテレビジョン)。現在、京都市立芸術大学日本伝統音楽研究センター客員研究員。

内容

第1回の「ショパンの死後に出版された楽譜の歴史」では、出版された順にショパンの楽譜を紹介し、どのような時代背景において出版されたのか、どのような特徴や傾向があるのか、について解説した。ショパン死後の楽譜出版は、当時の著作権と密接に関わっている。フランスではショパンの死後10年後に、ショパンの弟子やショパンと関わりのあった人物により校訂された楽譜が出版された。ドイツではショパンの死後30年後にあたる1879年からさまざまなショパンの作品が出版された。その時点でもショパンの弟子やショパンに関わりのあった人物、あるいは間接的に関わりのあった人物などによって出版されはじめたと同時に、書き込みの多い解釈版が増加し始めたことを明らかにした。その中でも、音楽学者であるエドワール・ガンシュ校訂の版(1932年出版)のように、現在の原典版に近い学術的な取り組みとしての楽譜も出版されたことまでを紹介した。

その後、イグナーツ・フリードマン、クロード・ドビュッシー、アルフレッド・コルトーなど、著名なピアニストや作曲家によってさまざまな校訂版、いわゆる解釈版が出版され、第二次世界大戦後に原典版の時代となる。

①『ショパン全集』イグナツィ・ヤン・パデレフスキ、ルドヴィク・ブロナルスキ、ユゼフ・トゥルチィンスキ校訂、1949-61.

世界的に広がり、日本でも長い期間にわたって使用されてきたパデレフスキ版。「自筆譜と初版に基づく」という校訂方針により原典版を目指しているが、原典版とは呼べない楽譜になっている。ショパンの没後100周年を記念して出版された全集であるが、現在の原典版から見ると、すでに過去の遺産と言っても過言ではない。この楽譜の出版の後、本格的な原典版の時代が到来する。ブロナルスキ、トゥルチィンスキ共に音楽学者。

②『ヘンレ原典版』旧版、エヴァルト・ツィマーマン、エルンスト・ヘルトリッヒ校訂、ヘルマン・ケラー、ハンス・マーティン・テオポルド運指1956-93.

ベートーヴェンやバッハの作品では主に用いられているが、ショパンの作品では普及しなかった。ドイツ初版を重視する傾向がある。ツィマーマン、ヘルトリッヒは音楽学者。ヘルトリッヒはヘンレ社のベートーヴェン全集を責任者。2001年からはベートーヴェン・ハウスの研究センターであるベートーヴェン・アーカイヴの代表となった人物。ケラーは作曲家、テオポルドはピアニスト。一時期、日本語版で出版あり(現在、絶版)。

③『ナショナル・エディション』旧版、ヤン・エキエル校訂1967-

ショパン生誕150年を記念して国家事業として取り組まれた『ナショナル・エディション』の旧版。表紙が白く、校訂報告もポーランド語のみ。最初に『バラード集』が出版された。エキエルはピアニスト、ピアノ教師、音楽学者。

④『ウィーン原典版』1973-

『プレリュード集』ベンハルト・ハンゼン校訂(作曲家、音楽学者)、イェルク・デームス運指、『エチュード集』パウル・バドゥーラ=スコダ校訂、『即興曲集』、『スケルツォ集』、『ノクターン集』、『バラード集』ヤン・エキエル校訂、《アンダンテ・スピアナートと華麗なる大ポロネーズ》、『ポロネーズ集』クリスティアン・ウーバー校訂。全集ではなく選集として出版。音楽之友社から出版。

⑤ペータース社による原典版1984-86

ベルリンの壁崩壊前に東ドイツ企画された原典版。正式には出版されず幻の版となったが、一部流通した。パウル・バドゥーラ=スコダ編集責任者。《プレリュード集》バドゥーラ=スコダ校訂、《即興曲集》今井顕校訂、《バラード集》ヘルベルト・シュナイダー校訂。

⑥『ナショナル・エディション』新版、ヤン・エキエル校訂、1997-2010

現在使用されている『ナショナル・エディション』。2010年に全集として完結した。「作品の全体性」にて校訂。

⑦『ショパン全集』The Complete Chopin ペータース新批判校訂版、2003-

『プレリュード集』ジャン=ジャック・エーゲルディンゲル校訂、『バラード集』ジム・サムソン校訂、『ワルツ集』、『即興曲集』クリストフ・グラボフスキ校訂、『ピアノ協奏曲第1番』、『ピアノ協奏曲第2番』ジョン・リンク校訂、《3つの新しいエチュード》ロイ・ハーワット校訂、最新の出版は《ノクターン》Op.9 No.2グラボフスキ校訂。「資料の全体性」にて校訂。

⑧『ヘンレ原典版』新版、ノーバート・ミュレマン校訂、2007-

順次リニューアルされて出版されている。受容に焦点をあて、ミクリ版、ショルツ版、パデレフスキ版からも譜例が示される。ウェブサイトから序文と詳細な校訂報告の pdf をダウンロードすることができる。『プレリュード集』、『バラード集』、『ロンド集』、《舟唄》Op.60、《子守歌》Op.57、《ソナタ》Op.4、《ポロネーズ》Op.53、《ポロネーズ》Op.44

⑨ベーレンライター原典版2016-

全集は目指しておらず、選集として出版される予定。自筆譜や初版など、多くの資料を掲載している点が特徴。また、珍しくイタリア初版を使用している点でも独自性がある。

《プレリュード集》クリストフ・フラム校訂、古楽器奏者ハーディ・リットナーによる指使いや演奏についての解説付き。《舟唄》Op.60ヴェンデリン・ビツァン校訂、《子守歌》Op.57セジ・セスキール校訂。

21世紀に入って出版された原典版のうち、現時点で4種類入手可能なのは『プレリュード集』のみ。今日は、そのうちの3種類の楽譜を基にして《プレリュード》Op.28 No.9を長井氏の演奏にて、具体的にどのような違いが生じるのかを説明する。

また、時間があればウェブサイト、ショパン・オンラインの使用方法を説明する。

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